就職活動が解禁されました。今回から経団連との協定で解禁が3月になっており、いつもより選考期間が短い「短期決戦」と言われています。
二〇一六年春に卒業を予定する大学三年生らを対象とした主要企業の会社説明会が三月一日に解禁され、就職活動が本格化する。経団連の方針変更で今回から解禁が三カ月遅れた短期決戦となるため、学生、企業とも工夫を迫られている。
短期就活戦線スタート 初の3月解禁:一面:中日新聞(CHUNICHI Web)
なにやら大変そうなのですが、具体的に昔と今では何が変わったのでしょう。
最近読んだちきりんの本が、それをうまく説明してくれていました。
現在は「社会の市場化」が進んでいる
この本の根底にあるのは、「社会の市場化が進んでいるよ!」ってことです。
「社会の市場化」——この言葉は、過去10年間に起こった日本社会の変化と、次の10年間に起こるであろう変化の両方を、最も的確に捉えることのできる言葉です。
どういうことかというと、インターネットによって情報交換のコストが劇的に低下したことで、需要と供給のマッチング効率が飛躍的に向上しました。それによって、インターネット上でマッチングが行われるようになったのです。就職活動もまさにその最たる例になります。
株取引なども同じですが、市場化が進むと情報がオープンな場所に出されて、その「場」で取引が行われていきます。就職活動の場合、「リクナビ」や「マイナビ」に企業の情報がオープンに掲載され、そこでどんな学生でもエントリーできる仕組みが構築されました。
マーケットができたことで、勝つためのルールが変わってきている
市場化されることが良かったのか、悪かったのかといえば、それは正直わかりません。ただ、全体としては良い方向なのだと思います。それはつまり、こういうことです。
地方に生まれた人や、有力な先輩や親戚のいない家庭に生まれた人の得られるチャンスは、飛躍的に大きくなったのです。市場は弱者に厳しいとよくいわれますが、むしろ反対に、持たざる者に大きな可能性を与えるのが、市場の特徴なのです。
誰にでも平等な「機会」が与えられるので、その機会がそもそもなかった人や機会をうまく使える人にとってはプラスに働くことになるでしょう。
例えば昔であれば、大学で推薦をもらって就職を決めるとか、人のつながりや地縁で決めるなど「少数の選択肢から選ぶ」ことになっていたので、今は「無数の選択肢から選ぶ」ことになっているわけです。そうなると、「お祈りメール」もたくさん受け取るし、自分で「どこの業界、企業を選ぶのか」というマーケティング的思考がとても重要になっているわけです。でないと、自分のお金も時間も無限にあるわけではないので、自分の限られたリソースを打率が高い領域に打ち込んでいく必要があります。
そうなると、こういう発想も出てきます。これは、今回の「短期決戦」だけでなく、そもそも選択肢が無数に増えていることが背景にあるからです。
短期決戦に備え、エントリーシートの作成代行を業者へ依頼する学生も増えている。 「M&Nコンサルティング」(さいたま市)では、代行を一万九千八百円(八百字以内、税別)で引き受けているが、今年はすでに約三十人から申し込みがあった。例年を上回るペースで、二月以降は問い合わせも急増しているという。中谷充宏代表(47)は「採用期間が短くなったことで、面接回数が減る中、失敗しながら修正していくという従来の就活は難しくなっているのでは」と指摘する。
短期就活戦線スタート 初の3月解禁:一面:中日新聞(CHUNICHI Web)
また、自分を埋もれさせないためのPR努力が必要になっています。なので、こういう発想になっているわけですね。
市場化されているので、逆に企業を選ぶ側にしてしまおう、ということです。
就職の成功パターンがなくなっている
もうひとつ、本書では面白い記載がありました。
特に合格率の低い難関資格を要する職業ほど、「高給で安定している」と考えられていたのです。 でもこれからは、お上が国家資格で保証してくれる職業ではなく、市場で強く求められる職業こそが、いい職業です。昔は政府が「すべての都道府県に国立大学をつくる!」と決めれば、大学の先生という職業の数(ポスト数)が、それに合わせて増えました。しかし市場の力が大きくなった現在では、政府の思い通りに需要や供給をコントロールすることはできません。地方大学をいくらつくっても、地方の若者が都会の大学に進学することを選ぶなら、地方大学で教職員のポストが増えるなんてことは起こらないのです。 市場化する社会では、政府が認定した資格を無思考に目指すのではなく、その資格を必要とする職業がおかれた市場の状況について、正しく理解するためのマーケット感覚が不可欠です。
大きな企業に就職する、あるいは難関資格と呼ばれているものを取得する。そういう、ある種「成功パターン」みたいなのが通用しなくなっています。行政がコントロールする領域が小さくなり、市場の変化が早くなっているからです。
そういう意味でも、社会の実態を知り、今のルールを知り、戦っていく素養が就職活動に求められているのです。
こうやってみると、大きく就活市場のルールが変わっているのがわかります。大人の経験談は、あまり通用しないかもしれませんね。学生は大人の古い体験談を聞くより、こういう本を読んでマーケット感覚を磨いた方が、楽しい社会人になれるかもしれません。