これからは「地方の時代」でもなく「都市の時代」でもない

アクセンチュアのこれまでのスマートシティーの取り組みなどを踏まえた、これからの日本の社会構造を示唆した本を読みながら、これからはやはり都市への集約と言うのは見直されるのかもしれないと改めて思いました。

都市へ移動する人々

もともとは、都市機能が集約すると、効率性が上がると言われています。こちらのTED動画がわかりやすいです。

都市および組織の意外な数学的法則

世界でみても、これからは都市へ人が移動するとも言われています。

国際連合「世界都市人口予測・2018年改訂版 [United Nations (2018). 2018 Revision of World Urbanization Prospects.]」概要 | 国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター | JIRCAS

年収も都市の方が高いのは自明です。

【書評】年収は「住むところ」で決まる

 

都市はQoLを上げてくれる場所か

冒頭で紹介した本では、都市コストが高くなっていることを数字で示しています。例えば、家賃だとこんな感じ。

それでは、都心部の住みやすさはどうだろうか。市民生活に関連するいくつかの指標から東京の住みやすさを考察してみよう。  まず、1㎡当たりの家賃。東京の家賃は2595円と、全国平均の1319円の約2倍。東京を含む首都圏全体でも2031円と、かなり高い水準だ。こうしたこともあってか、2018年に総務省が行った「住宅・土地統計調査」によると、一住宅当たりの延べ床面積は東京都が最も狭い 65・18 ㎡となっている。最も広かった富山県の143・57 ㎡と比べると半分以下だ。東京のような大都市圏で暮らす多くの若い人にとって、広い住宅を構えて悠々と暮らすのはかなわぬ夢となっている。

 

それ以外にも、食費は全国平均の1.5倍、刑法犯認知件数も1.2倍という数字が挙げられています。加えて、通勤ラッシュによる経済損失も大きくなっており、ワークライフバランスをとりづらい点も触れられています。

このようなネガティブな側面がありつつも、それを上回る都市のメリットがあるからこそ、集積が進められてきたわけですが、それも「価値観の変化」によって変わってきているのかもしれません。

これまで経済的な向上、個人で言えば年収のような指標が幸福度に近いものと捉えられて(もちろん、それが全てではないとみんな理解しつつも)いました。しかし、キャリアが多様化する中で、価値観も変化してきており、経済的な指標だけではなく、いろんな価値観での幸福観・人生観が増えていった気がします。

 

というようなことを考えていたら、ちょうどこんな記事をお見かけしました。

年収マウンティングそろそろ滅びろ|池澤 あやか|note

全く同感です。お金は必要不可欠なものではあるし、労働搾取なども当然ながらよくありません。ただ、人が大事にするもの中には、お金以外にもあるし、人や場面によって重要度は変わるのだと思うわけです。

 

二項対立ではないどこか

都市がダメ、田舎の方が素敵、とかは全く思わないわけですが、これまで都市化が進んできていた流れというのは、前述したような価値観の流れの中で、コロナがショック療法的に人々に浸透させた可能性があるのでは、と考えています。

安宅さんの「シン・ニホン」でも、本書の最後のあたりに「都市集中型の未来に対するおオルタナティブ」として、「風の谷」いう構想を提唱しています。

「シン・ニホン」を読んで日本の現状と未来を考える

(これがコロナ前の2月に発売されたことを思うと、本当に先見の明があるとしか言えない)

一方で、地方はインフラを維持するのが難しくなっています。単純に「地方の方が幸せになれる」というわけではなく、課題は山積です。再度冒頭のアクセンチュアの本によると、人口減少による課題がこう述べられています。

人口減少局面において、大きな影響を受けるのは、店舗やサービスなどの生活インフラだけではない。電気・通信・ガス・水道・交通・公共施設といったハードインフラへの影響も必至だ。  高度経済成長期に構築・整備されたインフラは、①人口減少による維持財源(有料サービスは売上、公共サービスについては予算) の不足、②維持するための労働力不足、③更新タイミングの波、の3重苦に襲われる。

 

この影響がすでに顕在化しているのが、地方の過疎地です。移動というテーマだけみても、こういう課題が加速しています。

こうして、地方部においては移動困難者、交通事故死亡者数、移動手段のための財政負担の3つがスパイラル式に増加する「負のサイクル」が加速している。地方部において、自ら運転しなくても生活に支障をきたさず暮らせる地域インフラの再構築が早急に求められている。

 

JR四国は赤字になっており、交通インフラを維持するのは本当に厳しくなっています。
過疎地における地方版MaaSの取り組みが増えているのも、その流れからいかに効率的な仕組みによって交通インフラを整備するかが求められているからです。

今年度12億円の赤字見通し JR四国はなぜ苦境なのか? 好調なJR九州との違いは(小林拓矢) – 個人 – Yahoo!ニュース

 

そういう意味では、今の都市もそうでない郊外も、既存の仕組みの延長では難しいのではないかという気がしてきます。もっと大きな枠組みで都市構造を見直すタイミングがきてるのかもしれませんし、いろんな取り組みが始まっているのも事実です。

「都市vsそれ以外」という二項対立ではない新しい形を考える時です。