【書評】確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力

USJの劇的なV字回復は、今や日本の人に知られていますが、その立役者である森岡さんが書かれた本が最近2冊発売されました。

そのうちの1冊は既にアマゾンでベストセラーになってます。

 

しかし今日ご紹介するのはもう1冊の方です。タイトルが非常に地味でカバーもちょっと硬く、値段も3,000を超えると言う高額なものになってます。しかしこちらの本は非常に中身が濃く、マーケティングを勉強したい方、USJの劇的な復活にどのようなマーケティングアプローチがとられたのかを具体的に知りたい方は、非常に刺激的な時間を得られることでしょう。

 

マーケティングに数学の力を駆使する

本書の中で特徴的なのは、「数学マーケティング」と著者が読んでいる、確率や統計などの数学を駆使したマーケティングアプローチを知ることができることです。

自分たちが行っているビジネスの市場構造はどのようになっているのか。消費者の購買行動はどのような動機で行われているのか。その要因を数学モデルで解き明かし、自社の売り上げを増やすための経営資源の投下先を見極めていきます。

具体的な内容は本書を読んで欲しいのですが、経営資源の配分する要素には3つしかない、ということを数学的根拠と合わせて示されているのです。

戦略、つまり経営資源の配分先は、結局のところPreference(好意度)、Awareness(認知)、Distribution(配荷)の3つに集約されるのです。

マーケティングのフレームワークであれば4Pなどがありましたが、このように具体的な理論的アプローチは初めて知りました。

マーケティングをセンスや経験に頼るのではなく、数学をちゃんと理解し、実践に組み込むことで、成功するための確率を高めることができるのですね。まさに数学とマーケティングが結びつく姿が描かれていて、個人的には目から鱗でした。

 

実際の事例も面白い

細かい数学モデルも掲載されているので深く知りたい方はそれをきっかけに勉強することもできますし、理論やアプローチを知りたい方も非常に読みやすい内容で構成されています。

さらに、P&GやUSJでの需要予測や消費者の購買行動をどうやってモデル化したかなど、非常に具体的に記載されています。特にハリーポッターを新たに建設するときは、当時のUSJとしては非常にお金を投資しました。当初は車内でも反対が大きかったようです。

「絶対に許さない」。新エリア導入を提案した森岡氏に、ガンペル氏はこう言い放った。それも当然だった。USJの年間売り上げ規模の800億円超に対し、投資額は450億円。無謀にみえるのはしかたがない。

【USJ解剖(上)】勝負賭けたUSJ、「ハリポタ」投資450億円の“勝算”…映画一辺倒を転換、「ワンピース」「モンハン」取り込んだ「V字回復戦略」(1/4ページ) – 産経WEST

 

これが失敗すれば経営危機を招くかもしれないという、非常にリスクがある投資でした。しかしこれも、実は数学モデルを駆使した需要予測を様々なモデルで行うことによって、十分な顧客増加が見込めることを確信した上で投資を行っていたのです。本書ではその過程が非常に具体的に描かれており、「ここまで公開するんだ」という感想を持ったほどです。

 

マーケティングを科学的に捉えてみたい、という方には是非お勧めです。上記で挙げた以外にも、経営判断をどのように行うか、どのように組織を作り上げていくか、など経営とマーケティングが結びつく内容も描かれています。

個人的には、USJがチケットを年々値上げしている理由が興味深くて、また熱い思いを感じました。

最後に。

マーケティングは、どれだけ成功確率を高められるかを模索し続ける「科学」を基本としなくてはならない。