イノベーションが重要だ、と叫ばれ、ビジネススクール界隈でも「Bスクールは時代遅れ。これからはDスクールだ」ということでデザインなどの面が重要視されるようなことが随分前から言われていたりするわけですが、一方で模倣してうまく事業を展開している企業もたくさんいるわけです。でも、イノベーションの方が優れていて、模倣はオリジナリティがない「いけてない企業」という印象がある。
そして、この本ではイノベーションと模倣は対になるものではなく、密接に関係していることを示している。この本を読めば、ちゃんと節度ある模倣は、非常に高度で誇らしいビジネス戦略だと思えてくる。
模倣するのは恥ずかしいことじゃない
この本が言いたいのは、要はそういうことだと思う。模倣というのは、安易な行為というわけではなく、たくさんの複雑な技術が内包されており、それらを駆使することで、初めて模倣をして結果が出せるようになる。さらに、イノベーションを起こす企業だけがたくさん稼げるわけじゃない。
しかし、一九四八年から二〇〇一年に生み出されたイノベーションを対象にした大規模な調査から、イノベーターたちは自分が起こしたイノベーションの現在価値の二・二%しか獲得していないことが明らかになっている。残りは模倣者たちが手に入れたものと考えられる。
そして、イノベーションと模倣の境界線は非常に曖昧なものであることが示されている。アップルは革新的な企業というイメージがあるが、実態は本書中にある以下の表現の方が適切だろう。
アセンブリーイミテーションの達人であるアップルは、既存の技術を斬新な発想で再結合することに創造性を使っている。
アップルのような幅広いスキルがない会社はどうしたかというと、自社のスキルと外部のパートナーのスキルを結合しようとした。組立て─再結合戦略の変種である。この戦略は、提携することで複雑さが増し、取引コストが膨らむという欠点がある。マイクロソフトとサムスンは、それぞれ他のベンダーと提携して、iTunesに対抗する音楽配信サービスを本格的に開始したが、このアプローチは失敗に終わった。両社は、成功している企業であるがゆえに、提携能力が高くなかったことがその一因である。
つまり、アップルもたくさん模倣しているし、そこにオリジナリティあるデザインやビジネスモデルを構築しているということになる。となると、模倣が悪で、イノベーションが善というような単純な図式ではビジネスは構成されていないことがわかる。
「正しく」模倣するには背景や構造を深く捉える必要がある
この本では、模倣の失敗例がたくさん登場する。成功企業を真似すればうまくいく、というわけではないのはみんな知っている。ではどうすれば良いのかといえば、表層的なところだけ捉えるのではなく、成功企業はどういう背景や構造によって、成功者たる結果を残せているのかを考える必要がある。安易に部分的な模倣をすると、自社と相矛盾するような考え方やリソースを取り入れることになり、中途半端な結果だけが残ることも往々にしてある。
本の中ではいろいろうまく模倣するためのアプローチが書かれているが、僕はそれに追加してビジネスモデルキャンバスを提案したい。ビジネスモデルキャンバスは、ビジネスモデルジェネレーションという本で紹介されていて、一度にビジネスモデルを構造的に捉えるという点においては、非常に有用なフレームワークだと思う。
話題のビジネスモデル・ジェネレーション(設計書)を徹底解説!
世の中は情報化によって形式知化されるのも、それが伝達されるのも圧倒的に早くなっている。模倣することはイノベーションにもつながるし、どんどん良いと思うものは取り入れて良いと思うのです。そういう点で、とても勇気をくれる本。