スティーブ・ジョブズが亡くなって早1年が経った。それでもAppleの時価総額は、今でも上昇し続けている。この結果は、ブランドはすぐに失墜するものではない、という考え方もできるし、Appleに根付いたカルチャーはすぐに廃れるほどのものではない、ということも言える。
著者が広告代理店出身なので、広告代理店の仕事の考え方として参考にしても良いと思うし、Appleやスティーブジョブズの裏話として読んでも楽しいと思う。iPhoneの名前が付けられる経緯も面白いし、スティーブジョブズが失敗することもあるんだという発見もある。ただ、それだけこの本を済ましてしまうのは勿体ない。
複雑なものをシンプルにするのは、とても難しい。それが実感できるのがこの本だ。たくさんのエッセンスが含まれているが、ここでは3つだけ挙げておこう。
無駄な選択肢は作るな
ひとつの製品に複数のパッケージ案を作ることを、スティーブジョブズが否定するエピソードが出てくる。複数案つくることはエネルギーが分散するし、時間がかかる。
僕も仕事で選択肢をよく作るし、他の人が作る選択肢もみる。だけど、本当に有効な選択肢はそんなに多くない。それでも作ってしまうのは、やはり迷いがある部分が大きいだろう。ひとつに絞り込むことは勇気が必要であり、複数の選択肢にしてしまう方がはるかに楽だから。
それでも、そうやってオプションを増やしていくことが、物事を複雑にしていく。
先送りするな
物事を未解決のまま残しておくと、人は先のことを考えるよりも、過去を振り返ることに多くの時間をかけてしまう。そこに複雑さが忍び込んでくるのだ。P.39
時間というのは、物事を複雑かさせる大きな要因になる。「今更このタイミングで言われても」という状況は、いろんな妥協を生んでいく。先送りしないということは、何でも今解決しておけということとイコールとは思わない。ただ、その時々で何が重要で、後回しして良いかどうかを決定することだと思う。それができず、何となく先送りすることが、後で悲劇を生む。
コミュニケーションは「管理」するな
きちんと気を配っていないと、正直さは計算にとって代わられ、関係ははぐくむものではなく、「管理」されるものになる。P.62
これは間違いない。クライアントと少し信頼関係がこじれると、お互いが牽制し合うようになる。疑い、計算し、保守的になる。これはほとんど良い結果を生んだ記憶がない。コミュニケーション設計は重要だと思うが、双方が育んでこそ簡潔でスムーズに仕事を進めることができる。
Apple関連の本を読むたびに、このCMをみたくなる。
このシンプルな白い装丁から繰り出される原理を噛み締めて、今日は寝る。