【書評】スタンフォード大学集中講義第2弾「未来を発明するために今できること」

スタンフォード大学集中講義「20歳のときに知っておきたかったこと」の第2弾。第1弾は個人にフォーカスされた内容だったけれど、今回は組織を対象にして、イノベーションを生み出す仕組みを整理したもの。

前作同様、読みながらいろいろ新しいことを試してみたくなる。ちょうど最近、ビジネススクールでリーダーシップに関する講義があったせいか、いろいろ考えがリンクしてきて個人的に面白かった。

 

イノベーションはなぜ必要か

リーダーシップ講義で学んだのは、課題を設定し解決する、という「As-Is/To-Be」モデルのアプローチでは、既存の延長線上での解決になって、過去の経験などに縛られてしまう、という点だった。それでは不確実なビジネスの現場では限界がある。過去ではなく未来に向けて、非連続的な革新を起こすために必要なのがイノベーションなのだ。

「画期的なことを考えるには、何かを突破しなくてはいけない。その何かとは、自分のなかの当たり前、直線的なものの見方だ。デコボコ道を行くことで、元の道に戻れるんだ。」

 

人の行動はルールや環境によって支配されている

イノベーションを生み出すのも、組織を停滞させるのにも、ルールや仕組みは大きな要因になっている。例えば、コミュニケーションが活発な方がアイデアが生まれやすいのだが、同じ空間にいたとしても、少し離れているだけど、全く異なる。

共同作業やコミュニケーションの密度という観点では、15メートル以上離れると、別の建物にいるのと変わらない、という調査結果があります。

あるいは、チームによる言動の内容によってもイノベーションは変わってくる。

マーシャル・ロサダは、ポジティブな言動とネガティブな言動がチーム力学に与える影響について、広範な調査を行なってきました。それによれば、ポジティブな言動とネガティブな言動の最適な比率は五対一だそうです。これは「ロサダ比率」と呼ばれています。

少し調べてみると、ロサダ比率というのは、ポジティブ心理学でよく出てくる言葉だそう。
ポジティブ感情黄金の比率をご存じ!?3:1の法則を活用しよう!! | KeiKanri

人は、知らない間にいろんなルールの中で生活している。作業空間をつくったり、組織を管理する側は、それによって人を活かしも殺しもするんだってことを知っておくだけでも、アプローチは変わるはずだ。

 

イノベーションを生み出すことと経営に取り入れていくことはまた違う

この本を読むと、いろいろな要素を取り入れることで、組織でイノベーションを生み出せるんじゃないか、という気になってくる。しかし、実際に経営を行う場合は、また別の観点が必要になる。

多くのアイデアを生み出す、しかしその選択は慎重に行う、素晴らしいアイデアでも企業が本気でチャレンジしようとしているものでなければ、捨てる。言葉で言うのは簡単ですが、大変な勇気と見極める目が必要です。

大西 宏のマーケティング・エッセンス : イノベーションというのは、1000の可能性に『ノー』ということ – ライブドアブログ

 

イノベーションの重要性は、昔から変わらないどころか、相対的に重要になっている。それは、変化のスピードが早く、不確実な社会だからこそ、自分から変革を起こせる力が重要になっているからだ。創造的で、楽しい組織にしようと思うのであれば、この本は読む価値がある。

リーダーにとって大切なことは、すべて課長時代に学べる

キヤノンでキャリアを積んだ、キヤノン電子社長によるリーダーシップ本。

世の中にはリーダーシップ系の本はたくさん出ている。そういう意味ではこの本はその中の一冊ではあるのだが、書かれている内容は非常に実践的で、わかりやすい。管理する立場になって必要な心構えや行動について、学ぶ点は多いだろう。

 

興味深かったのは、いわゆる「心のケア」についても書かれている点だ。こういうリーダーシップ系だと自身がモーレツ系で、あまりそういうケアに関する記載が見られることが少ないのだけれど、この本では違った。

私自身、何度か苦い経験をしてからは、大きな仕事が終わった後は、部下を休ませないようにしたし、空白期間を作らないように、すぐにちょっとした仕事を入れた。そして、下の人間にもそうするよう指導した。

こうやって、急に電池が切れてモチベーションを取り戻せないようなことになったりしないように、仕事面から管理する人たちの精神面の配慮に関しても必要なのは間違いない。

 

あとは、部下の能力を見極める方法についても書かれていて、参考になった。見極めることなんてそんなに難しくない、と昔は思っていたけど、意外に難しい場合もある、ということを痛い目をみて思い知った。

上司の指示をきちんと理解し、正しく実行しようとする人は、そもそも「ここがわからないのでもう一度説明してください」と必ず疑問点を聞いてくる。

こういう基本的なところをちゃんとチェックして能力を見極めないと、最終的に組織全体に悪い影響を与えてしまうことをちゃんと考えないといけない。

 

リーダーシップ論も時代とともに変わっているが、変わらない普遍的な部分もある。この本は、そういう基本的な原則を教えてくれる良い本だと思う。もう少し前に出会えば良かったかもしれないな、とは思う。

 

酒巻久の名言 厳選集

コーチングのプロが教える「ほめる」技術

コーチングの存在は知っていたが、正直少しその内容については疑っていた。人の話を聞くのは大事だし、ほめることも重要だけど、それで人が変わるなら苦労はしない、というような。あと、調べてみるとやたら短い時間で高い料金だな、と思ってしまったり。それほどの費用対効果があるのかと考えると、ますます怪しむ気持ちが高まってしまっていた。

だけど、改めてコーチングについて勉強してみようと思ったのは、自分がこれまで信じていた部下の育成方法が、人によっては通じない、と感じたからだ。勉強してみると、コーチングには人と接する上で学ぶべき点が多く存在することに気づく。

 

コーチングのエッセンスはいくつかある。詳しい人に聞いたところ、コーチングは「ベストプラクティス」だと言っていた。いろんなエッセンスが集まって形成されているから、取り入れやすいものから入れていけばいいんだと。それを聞いてなんか楽になったので、面白くて使えそうなところだけ取り入れてみることにした。

例えば、現状を認識して、問題を設定して、具体的な行動目標を決める、というステップだったり。コーチングとティーチングの割合を考えたり。フィードバックをどう与えるのが効果的か考えてみたり。

 

 

面白いのは、コーチングする側も気づきを得るよってこと。

とりあえず、中途半端にスキルや知識を取り入れると不自然になってコミュニケーションが白けてしまうんだろうな、と思うし、相手に対して適当なことを言えないな、と思うと事前に相手のことを考える時間を設けてから、部下と話すようになった。コーチングに対して穿った見方してたな。

ウェブで政治を動かす!

ウェブによって政局ではなく政策で選ぶ政治へ。それがこの本のテーマになっている。単なるTwitterとかFacebook使おうぜって話じゃなくて、ウェブメディアと既存メディアの対比や、ネットと選挙の関係など、ウェブと政治との関係を多角的に整理されている。

 

メディアとしてのウェブの役割は既存メディアと違う方向にある

読んでいてなるほどと思ったのは、既存メディアとウェブは情報を発信するとしても違う特徴を持っているということ。例えば、Wikileaksのジュリアン・アサンジのコメントが紹介されている部分。

注目すべきは、アサンジが定義した多メディア時代におけるソーシャルメディアの3つの役割だ。
1つめは、プロがつくった記事について、多様な視点を提供する役割。2つめは、埋もれているものを拡散して社会的問題にできる、拡声器としての役割。3つめが、プロの記者が取材する、調査するときのネタ元、情報源としての役割。

これを読むと、テレビなどのマスメディアと位置づけが異なる要素を含んでいるのがわかる。あるいは、考えてみれば当然のような「情報の正確さと速さはトレードオフの関係にある」ことを示している。

ツイッターのようなリアルタイムの媒体においては、情報の速度を重視するか、それともその信憑性を重視するかというトレードオフを常に抱えざるを得ないのである。

既存のマスメディアだって重要なのは間違いない。震災でも一番いろんな人にリーチして、確かな情報を発信したのはテレビでありラジオだったのだから。ただ、ウェブを政治など第4の権力として組み入れていくためには、その特性を理解して、使いこなす必要があるのだろう。

 

変わらなければいけないのは誰か

まあ、紹介だけ。

そのためには「失言」をありがたがるメディアの意識も変わらなければならない。議員の「失言」ばかりメディアで注目されるような政治状況が変わらないようなら、「ウェブで政治を動かす」ということは夢のまた夢で終わるだろう。

選挙への向き合い方に関しても日本人は、「自ら政治に働きかけたい」という意思よりも、そこに問題が生じて、「政治家にお灸を据えるために」投票する傾向があるという。

とりあえず、面白かったです。この本。すらすら読めたし。

あと、「You Choose」というサイトが紹介されていて、これを実際触ってみて感動した。こういう発想こそがウェブの力のひとつだと思うな。施策と予算が並んでいて、どれかを実施すると予算が増えて、何かを見直すと予算が減る、ということが視覚的に、わかりやすく検証できる。

普通の人が行政データを元に政策の対案を作って公開するインターネットサービス「You Choose」: ITジャーナリスト星暁雄の”情報論”ノート

普通の人が行政データを元に政策の対案を作って公開するインターネットサービス「You Choose」: ITジャーナリスト星暁雄の”情報論”ノート

You Choose – Home
[scshot url=”http://youchoose.yougov.com/Redbridge2012/Home/Index/2012″]

 

アメリカやイギリスでは、公共機関でもベンチャーの仕組みやサービスを取り入れる事例が存在するけど、日本はどうなんだろうか。

 

というわけで、このあたりに興味がある人は一読して損はないんじゃないかと。

フィリップ、君を愛してる

久しぶりに面白いと思える映画を観た。なんでもっと早くみておかなかったんだろう。

ジム・キャリーとユアン・マクレガーのコンビというのも魅力的なのに、さらに天才詐欺師でゲイの実話なんて、食いつく要素としては満載。どちらも演技が素晴らしかった。

映画「フィリップ、きみを愛してる!」オフィシャルサイト
[scshot url=”http://iloveyou.asmik-ace.co.jp/”]

 

この主人公は実在の人物で、複雑な過去を持っているようだ。

スティーヴンの母親は彼の父親と別れた後、シングルマザーになることを拒否してスティーヴンを食品製造会社の夫婦のところに養子に出したのだ。成長した彼は警察官になったが、実はこれ、自分を養子に出した実の母親を見つけ出すためだったという。だが、ようやく見つけた彼の母親がスティーヴンの実の父親と再婚しており、しかも彼の兄弟でもある子どもが3人いることを知ったスティーヴンはあっさりと警察官を辞めてしまう。

実在の本人の写真を入手!IQ169で懲役167年!刑務所に収監中のラッセル氏、原点は母の愛 – シネマトゥデイ

すごいテンポが良いし、ストーリー展開も良かった。こういう面白い映画に出会えるのは嬉しいなあ。

 

それはそうと、ゲイを含む性的マイノリティは、ビジネスにおいても大きな存在になっている。ビジネススクールのHuman Resourceの講義で知ったことなのだが、LGBTと呼ばれる性的マイノリティは、企業にとってマーケティング的観点からも、ダイバーシティの観点からも重要なテーマになっているのだ。

この記事で書いてある通り、LGBTの人たちは高学歴で消費意欲が高い傾向があり、また人口の数%は存在しているため、マーケティングとして非常に有望だと言われている。

LGBTを制するものが不況を制す! « GQ JAPAN

 

「さらに忘れてならないのは、ダイバーシティへの対応なくしてLGBTマーケティングは成立しないということです。例えばアメリカン航空は、消費者に向けたマーケティング活動を始める20年以上も前から、社内でのLGBTネットワークの設立や、同性パートナーへの福利厚生適用など、ダイバーシティ推進を熱心に行ってきました。こうした地道な活動があったからこそ、LGBTコミュニティに受け入れられた。決して商品(機内食やシート)がゲイにウケたわけではないのです」(東田氏)

LGBTを制するものが不況を制す! « GQ JAPAN

アメリカン航空の施策については、こちらの記事も参考になる。社内制度もいろいろ工夫されている。
アメリカン航空のフェアなLGBT対応 – Time Out Tokyo (タイムアウト東京)

 

というわけで、LGBTに受け入れられやすい社会制度やマーケティング施策を、どの企業も真剣に考えるいるのがここ最近のトレンドだってことを、「フィリップ、君を愛してる」をみて思い出した次第です。

商店街はなぜ滅びるのか

商店街というのは、どんどん衰退している印象がある。岐阜にも柳ヶ瀬商店街という、岐阜市の中心に位置する商店街があるが、決して繁盛している様子にはみえない。いろいろ活性化に関する取組が行われているが、人口減少や郊外の大型ショッピングセンターなどとの競争によって、厳しい状況は続いているのだろう。

この本では、そもそも商店街が生まれた背景から、その後の社会情勢と商店街の変遷が理解できる。知らないことばかりだった。

 

商店街の歴史

工業化が発展していく流れの中で、第二次産業によって労働者を吸収するとともに、それでも雇用者となれなかった農村出身者などが零細の小売業者となった。小売が零細のため品質が悪く、また雇用環境も安定しなかった。これを解消するひとつの手段として、「商店街」が生まれた。商店街は昔からずっとあったものではなくて、近代的な社会構造の変化とともに生み出されたものだというのが、本書の主旨だ。

その後、小売や流通の規制が緩和され、スーパーや百貨店が高い生産性を達成していく中で、商店街は政治に保護を求め、保守傾向を強める。それでも今度はコンビニが登場して、商店街を切り崩していく。コンビニが普及していったのも、時代背景と合致していて、ちょうど流通や小売の構造が変わっていって、零細小売業者の生活が厳しくなっていた。一方で、酒などの販売利権は零細業者に付与されており、コンビニはそれを獲得することにメリットがあった。

 

商店街は、零細である専門店を集約して生活に便利な消費圏を構築していたのだけれど、大型スーパーの台頭と、利便性が高く雑多なものが置かれているコンビニで、商店街としての強みは喪失してしまった。まともに比較すると、以下の記事のようになるわけで。
潰れゆく商店街から学ぶ「売れないお店の法則」 | お土産屋さんブログ

 

とはいえ、零細小売業者から転換したコンビニ店主も、結構楽ではない状況だったりする。
インテリライフ2ch : コンビニ経営者 「助けて!年中無休で辛い!糞高い上納金!もう死にそう!」

 

商店街の今後の動向

商店街については、いろいろな観点からみる必要がある。小売や流通の生産性が低い商店街を保護するのは、資本原理に抵抗することになる。実際、2010年現在でも、卸・小売業の労働生産性は製造業などと比べると低いと言われている。対米比で、製造業は70%であるが、卸小売は42%になっている。
公益財団法人日本生産性本部 – 労働生産性の国際比較2010年版 (生産性研究レポートNO.023)

 

一方で、商店街というのは各経済圏の中心に位置していることが多く、これが衰退することで町中の消費体験が低下する、あるいは郊外の大型店に引っ張られて街としての形成が危うくなるという構図がある。

とまあ、いろいろ問題はあるのだけれど、全国10000以上ある商店街に行政も取組を行っている。
中小企業庁:FAQ「小売商業対策について」

 

この問題は経済的な保護の面もあるのだろうけど、どちらかといえば都市政策の分野で考えられるべきところなのかね。昔の田園都市構想とか、そういう都市デザインと関連しているような気がしました。

人口も減っているし、僕は田舎や郊外で生活するのはどんどん厳しくなって、都市に集まる傾向が続くと思っているんだけど、そういうときに、商店街を抱える都市の中心は、どういう町並みであるのが良いんだろうか。

Amazonの「ほしい物リスト」は最強のキラーコンテンツだ

僕は、Amazonのほしい物リストをとてもよく使っている。日々使っていて、「これは、最強のキラーコンテンツである」ということ思ったので、それについてここで書いておこうと思う。

 

ネットフリックスの「QUEUE」とアマゾンの「Wishlist」

アメリカには、ネットフリックスというオンラインDVDレンタル会社があり、その企業では「QUEUE」と呼ばれるレンタル希望一覧リストが存在する。これを元に、順番にレンタルDVDを発送してくれるわけだ。

そして、この「QUEUE」はひとつのキラーコンテンツになっている。どういうことかといえば、自分の好みを蓄積できる場所であるからだ。次の発送を決める機能と同時に、自分の好みを覚えておいてくれることでもあるのだ。これがなくなったり、他社のサービスを使おうと思っても、リストがなくなることが非常に不便に感じるのだ。

アマゾンは、これと同じような機能を「Wishlist」として実現している。自分が欲しいものをたくさん登録することで、自分もこれを覚えておける。欲しい本や物を気軽に登録することができるし、あとでよく見返す。楽天ブックスで本を買おうと思うけど、リストはアマゾンに登録されているので、欲しい商品を思い出す場合は必ずアマゾンで確認することになる。こうなると、ますます他社で買うことが面倒臭く感じてしまう。

 

ほしい物リストはどんどん対象を拡大している

ほしい物リストは、新しい機能がどんどん導入されている。単なる自社商品のブックマークでは既になくなっている。

 

自社以外の商品を登録する

既にChromeの拡張機能などで、アマゾンにない商品でもほしい物リストに登録することができるようになっている。最初はなんでこのような機能を搭載したのか直感的には理解できなかったのだが、ほしい物リストの価値を高めるためには、その対象を広げることが合理的なわけだ。

最近は、他社の商品どころか、単なるメモまで追加できるようになっている。

 

外部に公開する

リストを複数作ることができるし、それを公開することもできる。震災でも活躍したが、商品リストを他人に的確に伝え、かつ重複購入がないようにするためには、とても便利なツールになっている。

 

楽天はなんでほしい物リストを作らないのか

以前から疑問なのだけれど、楽天はほしい物リストに該当するものが見当たらないが、なぜ存在しないのだろう。正直、ちょっといいなと思った商品でも、それを蓄積しておける場所が存在しない。これは大きな違いだと思う。蓄積しておける場所が必要なのだ。

アマゾンのほしい物リストは楽天の商品を登録することが可能だ。

 

というわけで、この記事を書くために自分のほしい物リストを見直したら、620も商品が登録されていた。僕は時間があるときに、不意にほしい物リストをついつい眺めてしまう。そして、その中から値段と気持ちが合致する商品を見つけて、今日もクリックしてしまうわけだ。

ミッシングリンク

情報通信産業に関する「ミッシングリンク」を整理した一冊。これが結構面白かった。

日本の情報通信関連企業は、グローバル競争の観点からすると、決してうまくいっているとは言えない。その原因は、いろんなところに存在する「ミッシングリンク」だ、というのが著者の主張だ。

 

情報通信産業の大きさとトレンド

日本の情報通信産業というのは、GDPの10%弱を占めており、製造業が20%前後であることを考えると、その半分程度の規模。主要な産業の中では小さい方ではあるものの、GDPを構成する立派な一つの産業であることは間違いない。

しかし、日本の情報通信関連企業については、決して良い状況とはいえない。

米国企業の2009年の収益が70%(2000年比)増加しているのに対し、日本企業の場合は17%の増加(同期比)にとどまっており、米国に比べると低調といわざるを得ない。

日本の情報通信関連企業は、グローバルな競争にうまく入り込めず、業績が低迷しているということだ。

 

コンテンツはハードやソフトと切り離されている

この数年ずっと同じ傾向になっている気はするのだが、ハードやソフトの発展によって、最もユーザに近いコンテンツの部分の自由度が高くなってきている。それをこの本で、以下のように表現されている。

ハードとソフトの紐付けの関係がほどけてきて、1つのコンテンツを様々な媒体を介して流通することが可能になってきたのである。

まさにKindleがそれで、Kindleの端末だけでなく、PC、Mac、iPhone、Androidなど様々な媒体で同一コンテンツを扱うことができる。

このように、ハードやソフトの制約が低くなることによって、モノを中心に構築するエコシステムではなく、特定の企業がサービスやプラットフォームを提供し、その周辺に様々なプレイヤーが関わる新しいエコシステムが生まれている。で、モノを提供する企業は、「エコシステムに参加する人」になってしまっている、ということが実際に起こっている。

このエコシステム構築にはいろいろアプローチがあるし、一方で簡単にはいかないのが現状ではあるのだけれど、通信会社であるAT&TがAPIで決裁機能を提供する事例が紹介されていて面白かった。日本でも、「もう通信会社って中抜きだよね」と言われているけど、考え方次第でまだまだ主要プレイヤーになれる可能性があるんじゃないか。

 

IT投資に対する米国と日本の違い

クラウドサービスの利用率について、米国と日本の違いが述べられていた。

日米間で比較して興味深いのは、メールシステムなどの情報系システムについては、導入率は日米でそれほど違いがないということ。日米間で大きく異なるのは基幹系システムの導入率で、米国が日本の約2倍となった。米国の企業は「まずは使ってみてメリットを実感してみよう」という攻めの姿勢が強い様子がうかがえる。

米国ではITバブルが弾けた一時期を除き、景気の良し悪しに左右されることなく一貫して情報通信関連投資が伸びている。他方、日本では景気が下振れすると情報通信関連投資が下振れする局面が多く見られる。米国では情報通信関連投資が「次の飛躍に向けた戦略的投資」であるのに対し、日本では依然として「コストセンター」と見られている面があるといえるだろう。

基幹系システムに対するスタンスの違いは大きい。基幹系システムについては、その名の通り業務の根幹に位置づけられるもので、自社特有の内容を含んでいる場合もあるし、これを変更することの業務への影響も大きい。これを変更するのは、経営効率やコストの面でリスクも孕んでいる。ただ、逆にここを積極的に変えていくかどうかが、経営のスタンスを決めるんじゃないだろうか。

 

それ以外にも、アジアなどの新興国とIT戦略の関係、国と民間の規制に対するアプローチなど、総務省大臣官房企画課長というだけあって、多面的なアプローチから情報通信産業を取り巻く状況が整理されている。

情報通信産業は、サービス業ほどではないが、他産業に比べると比較的付加価値率の高い業種と言われる。この業種は、今後どうやって生き残っていくんだろう。

江戸の天才数学者 世界を驚かせた和算家たち

「和算」と呼ばれる学問が、過去の日本にはあった。現代で学習する、アラビア数字で表現される西洋数学ではなく、江戸時代まで蓄積された、漢文で表される日本の数学だ。

江戸の和算家たちが次々と登場するが、どれも特徴があり、面白い。人物に焦点が当てられており、かつ時系列に並んでいるので、時代背景や和算を取り巻く文化、社会制度についてもいろいろ触れることができる。

 

単に数学といっても、この時代では数学はあわゆる学問に通じており、「天地明察」で有名になった渋川春海も登場するが、和算を暦改定に用いているし、最後に登場する幕末の小野友五郎も和算から始まり、西洋数学、海軍などの軍関連に発展させていく。他にも土木工事にも使われた事例が登場する。

また、門下や免許の制度が築かれていたり、算額として神社に奉納する文化、地方を遊歴しつつ和算を伝授していく和算家の存在など、ひとつの学問を通じて形成されたカルチャーが存在していたことも、とても面白かった。

 

このような歴史から何を学ぶべきか。それは、あとがきにすべて表れている。

筆者は、本書であげた天才和算家たちの生き方の中に、偏狭な閉鎖主義にも、無分別な西洋崇拝にも陥らない、しなやかな知識社会を創造する可能性を見る。そして、ともすればグローバル化の本質から目をそむけ、知的怠惰に陥りがちな我々が学ぶべき点、立ちはだかる困難さの前に挫けそうになってしまう我々が勇気を得る要素が、そこには多々あるように思うのだが、いかがだろうか。

知的欲求を大切にして、勉強しようと思う。

君は、こんなワクワクする世界を見ずに死ねるか!?

きっと、学生の頃にこんな本を読んでいたら、また自分の選択は変わっていたのかもしれない。

少なくとも、学生の頃には気づかなかったけれど、社会人になった今なら「今の社会であればこうした進路を考えておけば良かったかもしれない」と思う選択肢が、たくさん登場してくる。

 

自分の進路を考えるときは、いろんな物事を「どういう範囲」で捉えられるかにもかかってくる。例えば大学を選択するときに、日本の中から考えるのか、世界の中から考えるのか。選択肢を考える時点でその内容や数は変わってきてしまう。それは、日本国内でも全国なのか県内なのかによっても変わってくる。地方の学生は、大学のエリアをどうするかも選択することになるのだ。

 

この本を読むと、世の中にはたくさんの可能性があって、主体的に選択して生きていくことの楽しさを感じずにはいられない。

日本の高校からエール大学へ進学した学生の話。その中に、大学で過ごす毎日が刺激的で、楽しくて、感動がこみあげて目頭が熱くなるときがある、というコメントが出てくる。それぐらい、刺激に満ちた時間を過ごせる可能性が、世の中にはあることを、この本を読んで知ることができる。

 

ポジティブな人生を歩みたい方に。