共通番号(国民ID)のすべて

先日、病院に行ってきた。数ヶ月に1回は行く病院なのだけれど、毎回氏名、年齢、住所、病歴etc.をひと通り書かされる。5分程度で書けるので大した負担じゃないと言われればそうなのだけれど、「顧客管理ぐらいしといてくれよ」と正直思ったりする。

でも、2015年から始まろうとしている共通番号が導入されると、こういう事態も防げるようになるだろう。というわけで、共通番号に関するヘビーな一冊。だいたいこれで主要な論点を網羅されてるんじゃなかろうか。

 

共通番号(国民ID)のすべて
榎並 利博
東洋経済新報社
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名前などの文字では情報は一元管理できない

年金の名寄せ問題は記憶に新しい。未統合記録が約5000万件存在することに驚き、連日のように糾弾されていた。組織体質のせいだとか、システムが古いとか、データの記入間違いがある、とか言われていたけれど、外字の問題に触れた主張は、この本が初めてだ。

外字というのは、JISなど一般的に使われる標準文字では表せないもので、一般的に使うパソコンなんかではそういう文字は取り扱えない。ただ、公共機関は戸籍情報などのために旧字や異体字なんかを正確に扱う必要がある。そういうのは、外字として文字イメージを別途個別に作成し、データとして登録可能なようにシステムをつくりこむ。こういう部分が、名寄せを厄介にさせる。

外字は、都道府県CIOフォーラムでも議題にされるほど、自治体システムで共通して解消すべき課題になっている。

都道府県CIOフォーラム 第8回 春季会合 – 都道府県CIOフォーラム:ITpro

番号がないと国民が不利益を被る場合がある

年金問題がわかりやすい例だけれど、仕組みや情報の取扱いが不十分なことで、国民の権利が損なわれる可能性があることを、ちゃんと認識しなければいけない。

あと、定額給付金や子ども手当が、収入などの条件に関わらず一律なのは、世帯収入などの条件を一元的に把握する仕組みがないからだ。これをひとつひとつ確認して配布するより、条件に関わらず一律でばらまいてしまった方が事務コストが圧倒的に安い。だから、一律になってしまうのだ。(それでもメディアは、収入が多い世帯に対して給付するのは不公平だ、と報道している場合が多いけれど。)

今の番号制度の検討も、「給付付き税額控除」を実現することが目的のひとつになっている。垂直的な公平性を確保する上でも、番号制度は寄与する。

国の再配分機能は低下している

国などの公共機関には、再配分による格差是正機能があるが、相対的貧困率がメディアで話題になったことからもわかるように、再配分機能は低下しているようだ。以下は、OECDの2008年の報告から抜粋。

給与と貯蓄から得られる所得の格差は、1980年代半ばから30%拡大したが、同時期においてOECD諸国の平均は12%増だった。日本よりも大きく拡大したのは、イタリアだけであった。

1985年以降、子供の貧困率は11%から14%に増加したが、66歳以上の人の貧困率は23%から21%に減少した。これは、依然、OECD平均(13%) を上回っている。

http://www.oecd.org/dataoecd/45/58/41527388.pdf

本の中では、OECD25カ国で公的移転は下から3番目、税による再配分効果は最下位となっている。つまり、租税や給付による再分配機能が低下していて、国内での格差拡大を招いている。番号制度を導入することで、「給付付き税額控除」などの垂直的公平性を実現することを期待されている。

セキュリティや個人情報保護の懸念をどう回避するか

この本では、第三者機関の設置やアクセスログの確認する仕組みを作ることが述べられていた。実際に政府もその方向で検討しているようだ。

番号制度の要綱決定、事業者の罰則も強化 政府実務検討委 – SankeiBiz(サンケイビズ)

住基ネットはセキュリティ上強固であり、かつ合憲であることが実証されているが、共通番号は本人確認に用いられる、かつ所得情報などともひもづけられるので、漏洩リスクは大きく捉えるべきだろう。

「番号になるなんて嫌だ」とか「漏洩したら大変だ」ではなく、理論的に他国の事例なども参考にしながら注視すべきだろうと思う。そういう意味で、この本に書いてある各国の事例は、非常に参考になる。どれも国の背景や事情を念頭に設計されている。

クロヨンやトーゴーサンピンなんて本質的でない

共通番号や納税者番号の議論になると、クロヨン問題が解消するような捉え方があるが、それは恐らく難しいだろう。少額の決裁まで全部補足することは、いくら番号制度を導入しても不可能に近い。だから、小規模事業者や個人事業主の所得が事細かに補足されることは、少なくともすぐには実現できないだろう。

そもそもサラリーマンも年間65万円の給与所得控除をもらっている。全員が年間65万円もスーツとか本とか、自分の仕事に必要な経費として投資しているだろうか。というわけで、サラリーマンは補足されやすい代わりに、こういう控除を結構もらっているんだな、ということを知った。

共通番号が税の分野に導入されると、金融資産などの一元把握が可能になり、税収が上がると言われている。この本の試算では、16.7兆円だそうだ。これが本当なら、子ども手当の財源だって余裕だ。

というわけで、検討自体は着々と進んでいるし、Twitterでも#kokuminIDでそれなりに盛り上がっている様子。いろいろチェックしていかないと。

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