ビジネススクールで経営学を学んでも、その後はなかなか知識がアップデートされない、という実感があります。そういう意味では、本書はなかなかない一冊です。経営学に関するいろんなトピックが、最新の論文等を踏まえて紹介されており、ビンビン刺激されました。
ビジネススクールで学ぶ知識は「最先端」というわけではない
これはビジネススクールを否定するわけではありません。特性上、そうならざるを得ないというのが僕の感想です。
- ビジネススクールは実務家を生むことを主眼に置いており、比較的基礎を学ぶところ(最先端かどうかは二の次)
- 学校というスタイルの特性上、タイムリーにアップデートするのが難しい
また、最近は統計によるデータ分析がどんどん発達していますが、経営学にもその考えが強く出ており、「科学的」に理論を証明することが経営学者の関心であり、役割になっているとのことです。
経営学者は、何百・何千・何万、場合によっては何百万という企業データ、組織データ、個人データを使った統計分析をしたり、あるいは人を使った実験やコンピューター・シミュレーションをしたりして、その経営法則が正しいかどうかを確認していくのです。
以前、「優秀な経営学者は、会社を経営できるのか?」が議論になったことがありますが、この本を読めば、それは必ずしもイコールでないこともわかるでしょう。
経営学者はなぜ自分で会社を経営しないのか?一橋大学教授が答えたところ堀江貴文氏が強烈なツッコミ | netgeek
両利きの経営、コンピテンシー・トラップ、トランザクティブ・メモリー etc.
最新だけあり(あるいは僕が知らないだけなのかもしれませんが)、いろいろ知らない用語が出てきました。本書は特に組織論にフォーカスした本というわけではありませんが、組織論を中心に非常に面白い示唆が紹介されていました。
まず「両利きの経営」というのは、こういう風に紹介されています。
「両利きの経営」の基本コンセプトは、「まるで右手と左手が上手に使える人のように、『知の探索』と『知の深化』について高い次元でバランスを取る経営」を指します。
これだけではわかりづらいかもしれませんが、次の「コンピテンシー・トラップ」と合わせて理解することで、僕は納得できました。
この企業の知の深化への傾斜は、短期的な効率性という意味ではいいのですが、結果として知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが停滞するのです。これを「コンピテンシー・トラップ」と呼びます。
つまり、企業経営には「新しいアイデアを求める動き」と「ある領域の知識を深める動き」の両方が必要になりますが、一旦事業として形成すると、その領域を洗練することに注力する傾向が強く出てしまい、新しいアイデアを求める動きが低下する、ということです。
これは、僕は実感としては非常に納得します。どうしても、目の前の仕事をこなしていると、それを大幅に見直したり、新しいアイデアを導入するという思考自体が失われることがあります。そうでなく、積極的に情報を探し求めることも時々やらないと、組織は閉塞的になっていくということです。
トランザクティブ・メモリーというのは、組織全体で知識を高めるのではなく、組織内で「誰がそれについて一番詳しいのか」を知っておくことが、組織全体の知識能力を向上させる、という考え方です。英語でいえば、「Know what」ではなく、「Know who knows that」を高める方が効果的、ということです。
非常に捉え方が面白いなと思いましたし、それが学習効果として高くなるのだとすれば、組織のあり方やコミュニケーションの仕方も、「こうした方がいいかも」というアイデアがわいてきましたね。
それ以外にも、最近話題のダイバーシティに対する考え方、最近はあまり聞かなくなったCSRの効果など、様々な示唆が豊富に出てきます。ポーターなど基本的な経営学は学習したけど、、、、という人にとっては、非常に面白く読める本だと思います。
冬休みの読書にどうぞ。