携帯キャリアが既存顧客より新規・MNPを優遇する理由はこれだ!

新しいiPhoneが発表されるたびに、各キャリアから料金や割引、下取り金額などが発表されます。絵に描いたような価格競争が繰り広げられるわけです。

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で、こういう新機種発売のときによく聞かれるのは、「MNPみたいな他社ユーザーより、既存顧客を大切にしろよ」って話です。今日は、この問題を書いてみようと思います。

ゲーム理論で考える業界の構造

実際にはそんなことはあり得ませんが、ここはシンプルに「既存顧客」と「新規顧客」のどちらにエネルギーを振り向けるかで、顧客の獲得状況はどう変わるのかを考えてみたいと思います。

いくつか前提を書いておきます。

  • MNPの割引はとても大きくなっており、「手続きの面倒さ」以外に顧客のリテンションを維持しづらい状況にある
  • 一人あたりの既存顧客の売上は、既存顧客を優遇したからといって増えるわけではない

その前提を踏まえたときに、ゲーム理論としてマトリックスを整理すると、以下のようになります。

他社が既存顧客維持に注力する他社が新規顧客獲得に注力する
自社が既存顧客維持に注力するお互いに売上は増大しない他社に顧客を奪われる、または売上は増大しない
自社が新規顧客獲得に注力する他社から顧客を奪うお互いに顧客を奪い合う、または売上は増大しない

これでみると、各選択肢の結果を見たらわかりますが、「新規顧客獲得に注力する」方が顧客を他社から奪い、売上を増やす可能性が高いのがわかります。この前提にあるのは、「既存顧客を囲っても現状維持にしかならず、他社から顧客を奪うと売上増大が見込める」ということです。

そうなるとベストの戦略は、「いかに既存顧客が離反しないよう最小限のリソースでつなぎとめつつ、他社から顧客を奪うか?」というバランスの中にあります。既存顧客が軽く見られるのはこのためです。

装置産業型ビジネスモデルの構造上の問題

そもそもこういう状況になってしまうのは、携帯電話事業のビジネスモデルそのものに要因があります。携帯キャリア会社というのは、巨大な通信インフラを提供することで、その利用料をユーザーから徴収するのが基本的なビジネスモデルです。こういう膨大な投資が必要な事業を「装置産業」といいます。このモデルの特徴は、初期投資が膨大である一方で、ユーザーを獲得すればするほど一人あたりのコストは低下していく、というものです。

つまり、いかに多くの人に自社の通信ネットワークを使ってもらうかが勝負のポイントになるわけです。

よく誤解されるのは、小売のCRMなどで見られる「お得意さんを優遇する」というスタンスは、この装置産業のビジネスモデルではあまり通じない、という点です。小売などの場合、売上構成として「10%のお得意さんが30%の売上を構成している」というような構図が見られます。つまり、自社の顧客の中でも一人あたりの売上にばらつきが見られるわけです。なので、お得意さんを創りだして、自社の売上を向上してもらおう、という流れになるのがよく百貨店などで見られるパターンです。

一方で携帯キャリアの場合、それが通じません。頻繁に複数の商品を買う、という構図ではなく、2年に1回契約を結び、あとは決まった料金を支払う人が大半です。しかも、一人あたりの料金は他社との価格競争でとても拮抗しています。

arpu

これは、ソフトバンクの決算説明資料(PDFから拝借してきました。ARPUと呼ばれる、一契約あたりの売上を表しています。

また、MNP、キャリア固有メールアドレス以外の利用増加、キャリア固有端末の減少など、特定のキャリアに縛られてきた要因がどんどんなくなっています。ユーザーの流動性が高い状況が年々作られているわけです。

携帯キャリアは別の付加価値創出を狙っている

もちろんどの会社もよくわかっているので、泥沼の価格競争ではなく別のアプローチで付加価値創出を狙っています。ドコモはらでぃっしゅぼーやを買収するなど、商品・サービスを販売するプラットフォームになりたいようですし、KDDIはインターネットサービスやひかり電話と組み合わせたり、au Walletを導入するなど、ネットワークを活かした付帯事業を展開しています。ソフトバンクは、キャリア単体というよりはヤフーとか他の事業と合わせて考えてる感じですね。

まとめ

現時点では、「既存顧客に優遇してくれ」っていう考えはあまり持たない方が良いかなと思います。うまくキャリアを見極めつつ、効率的に選んでいければいいんじゃないでしょうか。価格競争の熾烈さを見ると、キャリアも生きる道を探すのに大変だなって思いますね。。。。

余談ですが、今回のiPhone6の価格発表で一番おもしろかったツイートはこれです。うまく特徴を捉えているんじゃないか、と。