Googleがスマートグリッドの普及を目指す理由

スマートグリッドという言葉が注目を浴びている。「スマードグリッド」というのは、電力網に関する言葉なのだが、なぜかこれにGoogleが強い意欲と示していて、具体的にプロジェクトにも参加している。この目的について、調べてみた。
 
 
まずは、Googleのデータセンターが背景にある
 
Googleは創業当初から、サーバは購入したりデータセンターを外注したりせず、自分たちでサーバを構築し、世界中にデータセンターを持っている。そして、サービスを提供する上でデータセンターは重要なインフラであると位置づけ、低コストで安定したGoogleのサービス提供のために、サーバの構築技術を追求している。
グーグル、自社設計のサーバを初公開–データセンターに見る効率化へのこだわり:スペシャルレポート – CNET Japan
 
一方、IT業界はすごいスピードで発展しているが、ひとつ大きな壁に当たっている。ムーアの法則に代表されるように、コンピューティング能力は24ヶ月に3倍に達しているが、それに対し、エネルギーの利用効率の向上ペースが24ヶ月で2倍にしか達していないらしい。
【Interop Las Vegas】深刻化するデータセンターの消費電力、「このままではムーアの法則が破綻する」:ITpro
 
これに伴い、性能はどんどんよくなっているが、それに対するエネルギー効率がついていけてないために、消費電力がどんどん上がってしまう、ということだ。データセンターを自前で持っているGoogleとしては、その効率を考えたとき、電力消費効率は重要な要素となる。
 
電力消費効率の指標としてPUE(Power Usage Effectiveness)がある。データセンター全体の電力消費量を、IT機器が利用する電力消費量で除した値で、1.0に近いほど良い値となる。一般的な値として、アメリカのデータセンターのPUEは1.8程度、日本は2.0程度と言われているが、Googleのデータセンターは平均1.2を実現している。最新式のものでは1.12という値もあるそうだ。
 
 
Googleが行う「RE<C」というプロジェクト
 
さて、Googleは2007年に「RE<C(Renewable Energy cheaper than the Coal)」という、持続的利用可能エネルギーの発電技術の開発を行う、研究開発部門を設置している。これまでのGoogleのデータセンターの事情と、電力消費効率向上を求められる背景を理解すると、なぜ「RE<C」をGoogleが行っているのか、理解できる。化石燃料に頼るのではなく、再生可能でクリーンなエネルギーで、安定かつ廉価な電力供給を目指す、というわけだ。
Google社「リニューアブル・エネルギー推進に数億ドルを投資」 | WIRED VISION
 
 
持続的利用可能エネルギーとして、太陽光や風力など、自然エネルギーを利用したものが中心になるそうだ。これを体現するかのように、Googleの本社は、ソーラーパネルでびっしり埋まっている。
Google、本社の大規模ソーラーパワー発電成果を公表! 24時間で10,050kwhに | 経営 | マイコミジャーナル
 
 
スマート・グリッドとはつまり何だ
 
Googleが安価で安定的な電力供給を求めていることはわかった。それに対し、持続的利用可能エネルギーの技術開発にも投資している。さて、これがスマート・グリッドとなぜつながるのか。というか、そもそもスマート・グリッドとは何か。
 
スマート・グリッドとは端的に言えば、これまでの電力網とインターネットなどの情報網を論理的に束ねることである。こういわれるとよくわからないかもしれないから、これを実現する目的を先に考えた方が良いだろう。
 
スマート・グリッドは次の2点を実現したい、という目的がある。
①小口電力を電力網に乗せられるようにする
 持続的利用可能エネルギーの電力を増やすためには、小口業者の電力が効率よくスムーズに電力網に含められる必要がある。現在は、大きな電力会社が集中的に統制しているが、それを分散型に変えたい、ということだ。
 
②きめ細かな電力需給を把握する
 電力の需要を正確に把握できたら、無駄のない電力供給を行うことができる。でも、現実には電力網は供給のみの単方向であり、正確な電力消費量は計測できていない。これを、計測し電力会社に情報として送る仕組みを構築したい、ということだ。
 
参考:「スマートグリッド」~電力版インターネットは社会に何をもたらす? | キャリワカ:トレンド | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉
 
 
日本にスマートグリッドは不要?
 
日本は、優れた電力供給体制が実現されており、既に「スマートグリッド」と言えるのでは?という意見がある。
 

例えば東京電力は,送電線敷設時に光ファイバ回線とRFマイクロ波回線も同時に敷設するなど,送配電網のほとんどに通信機能を組み込んでいます。このため,停電など障害が発生した場合の回復時間が圧倒的に早いという特徴があります。東京電力管内では,1軒当たりの年間停電時間は平均4分で,「約90~100分の米国に比較して1/20以下」(東京電力)です。東京電力は年間の設備投資額である約6000億~7000億円のうち,30~50%を送配電網に投資していますが,「米国では小規模の事業者が多いことや,電力自由化の影響もあり,結果としてネットワーク設備投資額が低く抑えられてきた」(ある電力事業関係者)といいます。

こうしたインフラ整備が十分ではない米国においては,「スマートグリッド」という取り組みは意味があるが,整備が進んでいる日本では必要ないのではないか,という見方が,日米の温度差の背景にあるようです。
「日本にスマートグリッドは不要」と言われる理由 – 日経エレクトロニクス – Tech-On!

 
つまり、②は全うされているのでは?ということになる。事実、そうなのかもしれない。しかし、①については十分とはいえない。確かに、精度の良くない電力が電力網に混入することで、電力供給のサービスレベルが低下するるのでは?という懸念がある。それを解消し、家庭や中小企業などが電力を供給できる立場にすることは、重要な目的のひとつなのだ。これにより、地産地消を実現する環境が整えば、地域振興にもつながる。
 
 
Googleが次に注目する舞台は、車
 
GoogleはPC、携帯の次の舞台として、車に注目している。Googleが発表している「Clean Energy 2030」の中で自家用車の二酸化炭素排出量を38%削減を目指している。
 
自動車エネルギーをプラグインカーにすることで、燃料効率を上げ、二酸化炭素排出量を減らすことが、車に注目するひとつの目的だろう。
Google、クリーンエネルギー提案「Clean Energy 2030」を発表 – ITmedia News
 
他にも、プラグインカーとなれば蓄電が可能になる。そうなれば、家庭の太陽光発電などの蓄電機能を車が担うことができるわけだ。この蓄電池の管理機能などに、ひょっとしたらビジネスチャンスがあるのかもしれない。
 
あとは、車もネット機能を持って、地図や地域情報などと連動することも考えられる。車というハードは、Googleにとって複数の意味で、可能性を感じるものなのだろう。
 
 
まとめ
 
Googleの動きを捉えると、Googleが非常に目的をもって取り組みを行っていることがわかる。非営利であるGoogle.orgを通じて行ったり、そもそもGoogleが採算度外視の行動を行ったりするのでつかみづらいが。
 
そして、Googleの行動の背景には、今後のIT業界の動きも見えてくる。なぜスマートグリッドなのか。なぜ電力業界なのか。なぜ車なのか。気づいたときには、IT業界のビジネスモデルは変わってしまっているかもしれない。そのとき日本のIT業界は、単にハードを売ったりアプリを作ったりするだけでは、この動きにはついていけないだろう。

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