出版業界はこれからパラダイム・シフトを迎えるのかもしれない

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出版業界が熱い。今がまさしくパラダイム・シフトの始まりなのかもしれない。いろいろ気になるトピックがあるが、少しずつ整理してみる。
 
 
デジタルのコンテンツ台頭
 
変革の中心にいるのは、Googleである。Googleは、著作権が切れた(パブリック・ドメイン)出版物を無償公開するプロジェクトや、電子書籍の課金システムを構築するなど、広告に次ぐビジネスモデルとして、出版業界に目を向けている動きがある。

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著作権の整備が各国で問題になっているが、技術的に可能であり、ユーザに利便性をもたらすものであれば、それは法整備が追いついていないわけであり、今後揉めることはあっても、大きな流れとしてデジタルコンテンツがもっと売上を伸ばすのは間違いないだろう。デジタルコンテンツであれば、コピーが用意でコストが低く、ユーザは自分が興味あるものを検索できたり、遠隔地であってもリアルタイムで情報を取得できるようになる。
 
日本では、エニグモ社が雑誌の通販とデジタルコンテンツのセット販売を行う「Corseka(コルシカ)」を10/7に公開した。現在は、日本雑誌協会からの意見申し出を踏まえて、サービスを中断しているが、今後もこのようにデジタルコンテンツを取り扱う企業が出てくるだろう。
 
 
紙としての出版物はどうなる?
 
可読性という意味では、やはり実物である紙媒体には適わないと思う。また、人間は実体があるものに愛着がわく、という面もあるので、そういう意味からも紙媒体の出版物が完全に淘汰されることはなく、激減することもないと思っている。
 
ただ、流通形態が変わることは大いに考えられる。またしてもGoogleだが、オンデマンド製本サービスを始めようとしている。
 
出版界の破壊神か創造主か?グーグルが 目をつけたオンデマンド製本の正体 | ビジネスモデルの破壊者たち | ダイヤモンド・オンライン

デジタルデータから、およそ5分で1冊製本まで行ってしまう機械だそうだ。Googleは当面パブリック・ドメインの出版物を対象に導入を試みるようだが、こんな技術が可能になると、出版業界は劇的なビジネスモデルの変更が行われる可能性を秘めている。
 
注文から製本までの時間を短縮できるとなれば、必要な在庫量を減らせることにつながる。現在の日本の出版形態でいくと、出版数はある程度は予測で決めており、その配分の権限は、取次ぎに大きく与えられている。売れ行きが好調な出版物は再度印刷されることになるが、出版数とタイミングは必ずしも現場とうまく噛み合っておらず、書店としては欲しい分の量を確保できずに、売上機会をロスしている場合も多いと考えられる。
 
最近は、POSの導入により売上実績は正確かつリアルタイムで把握されているが、それでも流通におけるロスは、小売業や製造業ほど進化しているとは言いがたい。今までネックだった、製本までのタイムラグ、及び在庫ロスのリスクを、こういった機械が減らすことで、効率的・効果的な配本が可能になる。
 
 
書店は売上に更なるコミットメントを求められる
 
出版業界は、出版社が書店に対して販売を委託している。書店は返品がきくので、返品期限させ守れば在庫リスクはない。これが、書店の乱雑な発注状態を生んでいることは否めない。在庫リスクがないから、売上機会ロスに注力することにより、多めの発注傾向があるように思われる。それがあるから、取次ぎが配本で「適正」とみなされる数にカットする、という役割を担っているともいえる。(ただし、返品率はチェックされており、これが高いともちろんどんどん配本は削られていくが。)
 
このような委託販売制を見直す動きとして、責任販売制が一部導入されている。書店の売上マージンを22~23%から35%に引き上げる代わりに、返品するにつき代金の一部を書店が負担する、というものだ。不用意な発注により売れ残りが出ると、書店にも損が生じるという、売れ残りを回避するインセンティブを働かせる仕組みである。
 
責任販売制度の「35(さんご)ブックス」 – Media & Communication 編集長ブログ

こういう制度が導入されると、書店はより「ちゃんと売り上げる」ことにインセンティブを働かせるようになる。自分の書店の客の傾向を把握し、どの程度売れるかを予測し注文する。注文数が叶えられる代わりに、返品にもペナルティが課されることになる。
 
 
新しいビジネスモデル、特色ある書店
 
デジタルコンテンツの台頭、製本までのタイムラグの短縮、再販制度の見直しが今後も進むと、大型書店に一層集約される傾向が高まるのではないかと思っている。
出版物を購入する手段は、主に3つだ。
 
①書店で実物を買う
②通販で実物を買う
③インターネットでデジタルコンテンツを買う
 
一昔前はほとんど①のみだったのに、②や③の手段が広まるにつれて、業界自体の大幅の売上規模拡大がない限りは、①の減少を招く。責任販売制のような、売上にコミットメントできる書店は、ある程度体力がないと持たないのではないかと思う。そして今後は、ひょっとしたら「書店」という枠じゃなくても良いのかもしれない。オフィスグリコのように、お菓子がオフィス内に進出したことで売上を増やしたように、本も「書店」を出ても良いはずだ。特定分野の客を引き寄せる場所に、それに見合った本を置けば、売れる確率は高まるだろうし。あるいは、著作権の整理が進み、デジタルコンテンツを利用した新しいビジネスモデルも出てくるだろう。新刊洪水に埋もれない、特定のカラーを出した書店だってもって増えてもいいはずだ。
 
出版業界は、パラダイム・シフトの胎動が始まっているように感じる。新しいビジネスチャンスも、ここで得られるかもしれない。

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