日本に「民主主義」を起業する―自伝的シンクタンク論

鈴木 崇弘¥ 576

 

日本でなぜシンクタンクが形成されないのか。政策形成の中心が官庁のままであり、外部からの政策形成過程をつくることができていないのか。そういう現状がよくわかる。

政策はどう形成されるのか。最近では、パブリックコメントだったり、アイデアボックスなどのオープンガバメント系の取り組みが少しずつ進められていて、民意を政策形成プロセスに組み込もうとしているが、本当にそれだけで良いのだろうか。

もっといえば、「政策競争」みたいな状況が起こりえないのか、ということだ。そこで必要と言われるのがシンクタンク。「シンクタンク」の定義がわかりづらいけど、これで何となく伝わるだろうか。

 

これまで述べてきたことからもわかるように、シンクタンクは単なる調査研究機関ではない。政策形成過程をよりオープンにし、より多くのアクターをその過程に関わらせ、そこに競争性を持ち込む、社会に民主主義のプロセスを実現する一つの道具、まさに民主主義の装置なのだ。P.110

 

シンクタンクが行うことは、アカデミックな政策研究や調査と合わせて、その提言を発表したり、議論する場を設けたりする。そして、実際の政策機関に対する人材輩出も時には行う。大学などでも公共政策を研究しているけれど、アカデミックと実学の中間に立つのがシンクタンクだ。

 

しかし、それが国内では十分に育っていない。

 

私の理解では、日本にもこれまで多種多様な形で政策提言をする組織や活動は存在してきた。しかし行政組織も含めて、的確かつアカデミックな議論も踏まえた政策研究を行い、その成果に基づいた政策提言とその政策情報の蓄積を行ってきたシンクタンク等が、ほとんど現存してきていないのである。それは国際的にみても日本の政策形成において、政策情報の質量で大きなハンデであるといえるだろう。P.173

 

そこは、社会的なニーズの機運もあるだろうし、個人的には資金面の問題が大きいと思っている。研究機関を抱えるにはそれ相当の資金が必要となる。その資金を財団が資金を提供しても良いし、パーセント法などの法律によってフィランソロピー文化を醸成しつつ、寄付提供先として資金を受けても良いと思う。民間になれば、調査・研究依頼やコンサルティングで資金を獲得する方法もあるだろう。ただ、後者についてはシンクタンクという長期的な視点で作業を行う性質なので、やや難しいのかもしれない。逆に、シンクタンクが社会にどう役立つのかをもっとわかりやすくしなければいけないのかもしれないし。

 

あとは、人材面でもシンクタンクの社会的役割はある。

 

これらのように、大学、シンクタンク、行政府、議会(立法)等の間を行き来したり、それらの機関に関わりを持ったりする人材は、シンクタンクという仲介機関を一つの軸として、政策研究に多様に関わっている。P.118

政策人材の育成機関も日本では欠如している。これまで公務員の育成の多くは大学の法学部等が担ってきた面もあるが、そこでは法律の解釈が教えられるばかりで政策や法案の作成について学ぶ機会は少ない。また近年では公共政策系の学部や大学院が多数できているが、実務を含めた政策立案や政策研究について必ずしも学べるとはまだまだいいがたく、政策人材の育成に大きく寄与しているとはいえないのが現実だ。また政策人材が活躍するための制度等も不十分である。たとえば公的活動に関する休職制度や専門人材の雇用制度等が未整備だったり、兼任や兼務を禁止する等の制約があったりする。P.246

 

官民交流が硬直的と言われているのは昔からだし、みんなの党なんかは官僚幹部については政治登用として公務員の雇用保護の対象から外す提案をしている。

 

幹部官僚はいったん退職。特別職として時限採用し、時の内閣の政策を忠実に遂行。選挙公約 – みんなの党

 

シンクタンクが成立して、政策市場の規模が大きくなることで、人材が交流して、政策形成が活性化していくのではないか。

 

最後に。

今後の地域主権の流れから考えると、各地域にもこういう政策を考える小規模なシンクタンクも必要なのかもしれない。そういう地域行政の政策形成プロセスに、今は興味がある。

 

追加参考:

特集:民間シンクタンクに期待される役割|三菱UFJリサーチ&コンサルティング|季刊 政策・経営研究:Quarterly Journal of Public Policy & Management