成功は一日で捨て去れ

成功は一日で捨て去れ
柳井 正
新潮社
売り上げランキング: 36

ファーストリテイリングの柳井会長兼社長の最新刊。「一勝九敗
」は、起業からの話だったが、今回はフリースがヒットした後の話。社長交代の顛末や、その後の事業展開、経営の考え方、小売り、繊維産業に対する考え方など、印象としては広く惜しみなく書かれている感じ。

著者の、謙虚かつ誠実な人柄が伺える文体も、読んでいて気持ち良い。
本のタイトルからもわかるように、全体としてメッセージは「安定志向を捨てて仕事に邁進する」に尽きる。そういうスタンスが、今のユニクロの成功を支えている。

小売り、繊維産業に関連ある方には、いろいろ有益な情報もあるかもしれないが、それ以外の人にとってもやる気になる自己啓発本みたい。プロフェッショナルとは何か、経営や仕事にどういう姿勢で取り組むべきか、示唆を与えてくれる一冊。

ちなみに、これを読むとユニクロに買い物に行くのがちょっと楽しみになります。フリースやヒートテックがどういう気持ちで開発されてきたのか、とか、ユニクロが取り組んでいる障害者雇用とかがわかるので。以下は、ユニクロ店内に置いてあった「服のチカラ」という無料誌。内容は、ユニクロで働く障害者へのインタビューを行っていて、インタビュアーが田口ランディという贅沢さ。

服のチカラ

とりあえず、よりユニクロを好きになる本だな。

あわせてどうぞ。

まんがで読む共産党宣言

共産党宣言 (まんがで読破)
マルクス エンゲルス バラエティアートワークス
イーストプレス
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六本木で働いていた元社長のアメブロでこのシリーズが何回か書かれていたので、試しに購入。

こんなの、と言っては大変失礼だが「共産党宣言」という本を、普段の生活でまともに読んでみよう、という人がどれぐらいいるだろうか。そういう意味で、「まんがで読む」シリーズはその敷居を大きく下げてくれるのは間違いないだろう。やはり視覚効果というのは、理解を促す上で大きい。

本の内容も、ストーリー仕立てで、資本家に酷使される労働者が、どういう思考を持ったり、いろんな考え方が混入された時代を経て、今の時代があるということが描かれていてわかりやすい。

今でも政治や経済などでは、「マルクス主義」という言葉が見られるが、その根源となった本の内容がさくっと読めるのだからありがたい。この内容がどういう形で役立つかは別として、このシリーズはいろいろ読んでみても良いな、と思った次第でした。


あわせてどうぞ。

コーチングの技術

コーチングの技術―上司と部下の人間学 (講談社現代新書)
菅原 裕子
講談社
売り上げランキング: 10314

最初に、コーチングとはどういうものか、ということを理解するためには適した本。わかりやすく、きれいにまとまっている。
 
印象的だったのは、最初のテニスのエピソード。最初、普通にラケットを持たされてテニスに挑んだ著者は、全然うまくいかず、いらだっていた。そこで、コーチに「バウンド・ヒット」をやれ、と教わる。(飛んでバウンドしてきたボールを、単純に当てろ、という意味。)
 
これを教わることで、ボールを当てて返せるようになり、楽しくなった、ということらしい。

結果ではなく、行動を目標にする

 「行動目標」という言葉があり、特に営業の分野で注目されているらしい。(この間、ガイアの夜明けでも取り上げられていた。)
 
組織のモチベーション向上と成果主義のため、上司と相談して目標を設定し、定期的に達成度を評価する、という制度がある。本書を読んで、目標設定するときは、注意しなきゃいけないな、と思った。
 
よく、売上○○%達成する、とか、コスト○%減にする、とかいう目標を立ててしまうが、それがその人の役割にあった目標であるかはよく考えないといけない。売上責任のない社員が、売上達成を目標にしてはいけないし、コスト管理に責任のない人がそれを目標にするのはおかしい。
 
ただ、営業は「売る」のが仕事だから「売上」が目標になってしまいがちになる。こういう場合に、「行動目標」を設定する。売上責任のある上司から、それを達成するための行動として、「一日○○社に訪問する」とか、具体的な行動を目標にさせる。
 
 
人がモチベーションを上げるのは、ちょうどよいストレッチ幅のある目標を設定したときだ。気をつけよう。

人を助けるとはどういうことか

人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則
エドガー・H・シャイン
英治出版
売り上げランキング: 161

「支援学」というアプローチから、人を助けることについて考察されている。コンサルタントという職業に就く最初のときに、こういう本を読んでおけばよかったかもな。長年自分があやふやなまま、おぼろげに輪郭を捉えようとしてきたことが、明確に書かれていて非常にすっきりした。
 
それは、「信頼がある」とは、どういう状態を指すか、だ。それが端的に表されていた。

1. その人間との関係の中で、自分がどんな価値を主張しても、理解され、受け入れてもらえること
2. 相手が自分を利用したり、打ち明けた情報を自分の不利になるように用いたりしないと思うこと

 これを姿勢として示していくことが、信頼の醸成になるんだな。きっと。
 
他にも、いろいろ気になったことが書いてあったので、メモ。
 
 
相手に気を遣わせずに支援するために
 
支援を求める側は、支援する側に対して相対的に地位が下がる。作業をお願いすることに対し、負い目を感じたりするからだ。これがどういう結果を招く可能性があるかというと、相手のプライドを傷つけることになったり、お願いが続くと、支援を言い出しづらくなったり、逆に依存体質になってしまったりする。
 
つまり、相手が一方的に支援を求め続けない状況を作ってあげることが、適切な人間関係を保つ上で重要となる。これに対する対処法として、自ら支援を申し出ることで、支援を言い出すことによって相手が受ける心理的なプレッシャーを緩和させることにつながる。もしくは、相手の自立を支援することを目的に据えることも、良い方法かもしれない。
 
コンサルタントであれ、SEであれ、IT業界はお客さんと長く付き合うことが多い。長期的に円滑に仕事を進めるためには、こういう心理作用も考慮して、適切な人間関係を築きたいもんだ。
 
 
成果を上げる良いチームを作るために
 
より良いチームを作るためにも、支援をする・しないということによって、相対的に地位が上がったり下がったりすることが、重要な意味をなす。
 
例えば、あるメンバーが周囲から一方的に支援され続けると、その人は萎縮して仕事できなくなるし、周囲もうんざりする。こういう状況から、個人に対する不満なども鬱積しやすい。成果を上げる良いチームを作るためには、「互いに支援し、互いに支援されあう関係」を築くことが重要だ。誰かに助けられると、何かの機会に逆に助けようと思う。支援されることで相対的に下がった地位を、自然に人は取り戻そうとするのだ。
 
だから、チームをまとめる人は、チームメンバの中で、どこか一方的な支援の流れになっているポイントがないか、注意した方が良い。役割を作ったり、そういう状況を促したり、時には指示したりして、いろんな人がそれぞれの役割で助け合えるチームを作りたいもんだ。

「事業仕分け」に今後期待すること

 「事業仕分け」が始まって、報道でもネットの世界でも盛り上がりを見せてる。(前から思ってたけど、「ネットの世界で盛り上がっている」という表現は、何を指すんだろうね?自分でもイメージで使ってみるけど。)
 
細かい内容は専門家でもないので任せるとして、気になった点を書き留めておく。
 
 
「全体像」はどこか
 
報道を見て、「事業仕分けをしています」ということは分かるが、どれを対象に行っているのだろうか。

まず問題なのは、仕分けの対象になったのは概算要求に出ている約3000の国の事業のうち15%足らずの447事業にすぎないということだ。
事業仕分けという人民裁判 – 池田信夫 blog

これを理解した上で、この「事業仕分け」という作業を見なければいけない。
 
 
「ゴール」とは何か
 
今までの自民党政治の無駄に切り込む、という謳い文句もあり、実際に切り込みを始めた「事業仕分け」。1時間程度の議論で、廃止・予算削減・民間への委譲など、バサバサと結論が出ていく。劇場型で、見ている側としては面白いが、切られていく方がつらいこともあると思う。
 
さて、Twitter上で議論が出ているもののひとつに、基礎研究などの短期的には結果が出づらい分野をどう評価するか、ということがある。
 
これが混迷する理由は、この事業仕分けの目的や、そもそも国が打ち出すビジョンが不明確だからだ。いろんな角度で見れば、いろんな結論が導き出せるのは当然である。企業戦略でも、長期的な視点でどこに投資するかは常につきまとう課題だが、科学的根拠や論理的思考だけでは明確な答えは導き出せないので、経営者が企業の今後のビジョンと照らし合わせて、必要な分野への投資を決断するのだ。
 
事業仕分けの目的は、報道を見る限り自分は知らない。それが事前に、はっきりと出るのがよかったかな、とは思う。
「財源不足は国家喫緊の課題であるため、全体の事業から●●%の削減を目指すことが、目的。長期的視点など今回は優先しない」とか。PDCAサイクルを回すためにも、「事業仕分けの目的」も、「一定の役割を果たせた」という抽象的な概念ではなく、「何%達成だから十分」というような定量的かつ客観的な評価を後々してもらいたい。
 
 
それでも前進している
 
今回の事業仕分けにはいろんな意見も出ているし、進め方や評価の仕方に課題も多く見つかっているだろうと思う。ただ、これだけ透明な場で、国家事業について議論され、結論が出されていく状況が作り出されたことは、国民にとっても大きな前進だと思う。
 
今まで情報が見えないことが、結果的に国民の無関心を招いていたかもしれないし、何を始めるにしても、最初から完璧な仕組みというものはないのだから。
 
そして透明な場が作られたことによって、新しい動きが出ていることも興味深い。@ksorano が、Ustreamで事業仕分けをリアルタイム配信したことで、Twitter上で議論が進み、まとめサイトみたいなものも作られた。メディアはこの速報性という面では勝てなかったし、新しい情報伝達の形が見えた気がする。
 
 
評価をするのは誰でもできるが、新しい何かを始め、作り上げていくことの方がよっぽど難しい。今回の新しい一歩を喜びつつ、次につなげて欲しいと願う。


あわせてどうぞ。

前向きに人生を諦める方法

結構示唆的な内容だったので、自分の見解を書いてみる。タイトルは、この記事とか「希望を捨てる勇気」みたいなところから受け売りで。
人生は早めに諦めよう! – Chikirinの日記

早めに「人生の天井」を知る。

そういうことを中学生くらいで知ることを不幸と思う人もいるのだろうが、ちきりんは「40才まで分からないよりは、中学生くらいで分かった方が幸せでは?」と思う。

それより、若い時にいろいろ諦めておいたら違う人生が開けてくるんじゃないかな。
人生は早めに諦めよう! – Chikirinの日記

その通りだね。幼い頃から大学生まで、いろんな夢があったけど、運動や音楽や建築の才能がないと諦めて、今はITコンサルタントらしきことをやっている。今までの夢の何かに今でもこだわっていたら、結婚もせず、どこかで貧乏に野たれ死んでいたか、もしくは親のすねでもかじりながら、肩身の狭い人生を送っていただろうと思う。
 

年齢とともに制約は増えていく

社会人として年季を重ねるたびに思うのは、時間とともに自分にとって制約がどんどん増えていくんだ、ということ。
例えば、もう自分はプロ棋士にはなれないだろうし、宇宙飛行士にもなれないだろう。
IT業界を選んだことで、転職可能な業種は限定されるかもしれない。
 
そういう制約が増えていくことは、肝に銘じなければいけないな、と思う。
 

自分の頑張りが無駄になる可能性

自分より優秀な人と無理に競争したり、苦痛しか感じない仕事をプレッシャーの名のもとに頑張ってみたり。
そういうのは、やめた方がいいと思う。たかが仕事だし、80年ぐらい生きる人生のほんの一部でしかないはず。
 
過度に頑張りすぎると、人は簡単にうつ病にもなるし、そうなってしまうと完全な社会復帰には本当に時間がかかる。人生のほんの一部だったはずの仕事が、ものすごい影響を与えてしまうことにもなりかねない。頑張る方向を誤ると、自分の頑張りが無に帰す結果になることを、社会人になって初めて知った。
 

結論:自分のエネルギーを投入するポイントを考える

生まれたとき、人には無限の可能性はあるのかもしれないけど、ずっと無限の可能性があるわけではないし、無限に達成できるわけでもない。
時間は有限だし、自分の労力にも限りはある。だから、どこに自分のエネルギーを投入するか、考えなきゃいけない。
 
とりあえず、苦痛だったりモチベーションがあがらない状況になったら、一度諦めてみるといい。誰かに遠慮なくすがってみても良いと思う。
趣味に生きるのだっていいし、副業を始めたっていい。自分のモチベーションが上がるポイントに対してエネルギーを注ぐことが、素敵な人生になるんだと思う。今日この頃。

政権交代バブル

竹中平蔵さんの新刊。ちょっと前の「闘う経済学」と重複する内容もあるけど、基本的には民主党に政権交代した後の、民主党への提言というタイムリーな内容。経済的観点からの政策や、官僚との付き合い方など、経験者らしい詳しい提言が含まれている。

日本の所得捕捉率について

恥ずかしながらこの本で初めて知ったのだが、所得捕捉率(国が所得を把握している率)はかなり低いそうだ。用語として、「クロヨン」とか「トーゴーサンピン」などと言われるらしい。

クロヨン – Wikipedia

事業によって不公平が発生している現実から考えると、消費税は平等かもしれない。ただし、低所得者に対してはある程度加味する必要があるとは思うけれど。

本書では、納税者番号制の導入をうたっている。プライバシーの問題で導入が見送られているらしいが、システム屋の発想からいえば、データベースでID振って管理するのが最も簡単であり、いろんな場面で現状導入されている。自分がどこかの企業に渡した個人情報は、既にID管理されているし、ユーザはそれを気づいていないか、もしくは気にしていないと思う。実際、WebサービスではIDやユーザIDを登録するし。当然のことだ。なぜ反対されているかは不明。

本の内容から少しずれたけど、内容はタイムリーではあるけれど、何分新書ということもあって、若干内容が薄い。どちらかというと、「闘う経済学」の方をすすめる。

参考:団塊世代Aの暇つぶしブログ : 所得捕捉率

闘う経済学―未来をつくる「公共政策論」入門
竹中 平蔵
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脳に悪い7つの習慣

脳に悪い7つの習慣 (幻冬舎新書 は 5-1)

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脳ネタがゲームやらテレビやら本で相変わらず流行っている気がするけど、脳トレでは鍛えられない、というフレーズにひかれて読んでみた。面白かったよ。気になったことをメモしておく。

人は情報に対してまず「好き・嫌い」から入る
脳の仕組みからいくと、「理解」「思考」「記憶」という過程の前に、必ず情報に対して「好き・嫌い」のレッテルを貼るんだそうだ。言われてみると、確かにそうかも。
好きな人からの言葉は素直に受け入れられるし、嫌いな人からの言葉は、頭ではわかっていても心が受け入れられなかったりする。
これは重要な示唆だと思う。積極的に思考するためには、相手の言葉を「好き」になる努力が必要だ。そして、自分の言葉を受け入れてもらうには、自分の言葉を「好き」になってもらわなきゃいけない。好きになる要因はそれぞれだけど、どうなったら人の言葉を素直に聞けるか、自分の言葉を素直に聞いてもらえるか、をよく考えてみるのが重要なのね。
脳は達成感を得ると思考停止になる
これも言われてみればそうだよね。まあ、こんなもんかな、という中途半端な達成感を感じると、それ以上考えなくなる。どこまで追いかけるか、という適切な目標設定が必要なのだ。
自己管理でもチーム管理でも、適切な目標を良いタイミングで与え続けることが重要。そのときは、やらされてる感をできるだけ排除して、主体性を発揮させることも重要なポイント。
日々の姿勢やリズムを大切にする
空間認知能という、位置や空間、時空を把握する能力というものがあり、これが高いと物事の判断、思考、記憶が向上するらしい。
これを鍛えるためには、姿勢を正しくしたり、字を丁寧に書いたりするのが重要らしい。両方ともダメです。
実は日々記憶力が少しずつ落ちているのでは、という恐怖心みたいなのがあり、メモに頼らないと仕事が回らなくなってきている。回っているから良いものの、記憶をとどめておく自信がどんどんなくなることは、正直怖い。
猫背を卒業して、字を丁寧に書く努力をしよう。頑張ってみよう。
というわけで、脳の仕組みは科学的に理解しやすい本なので、さくっと読める一冊。脳の仕組みを知れば、自分で自分をコントロールできる気がするから、不思議だ。

郵貯、簡保はユニバーサルサービスにする必要があるか

郵政民営化見直しの基本方針が固まったそうだ。その一部を抜粋。

アゴラ : 「郵政改革の基本方針」に伴う懸念 – 池尾和人
郵政改革の基本方針
 
「郵便、郵便貯金、簡易生命保険の基本的なサービスを全国あまねく公平にかつ利用者本位の簡便な方法により、郵便局で一体的に利用できるようになる。」
 
これを読んで、郵便はともかく、郵貯や簡保はユニバーサルサービスとする必要があるのだろうか、ということを疑問に思った。っていうか、そもそも郵便などのユニバーサルサービスとは、どういう場合に必要なのか、ということがわからなくなったので、調べてみた。そこで、非常にわかりやすく参考になる文献を見つけた。
 
ユニバーサル・ サービス(山重慎二)

 
これを踏まえて、いろいろメモ。
 
郵便は、なぜユニバーサルサービスになる必要があるのか
 
上記の文献を読めば明確で、ネットワーク性が必要であり、かつそれによって、公平性・効率性が得られるサービスである、と理解できる。公平性は、均一料金や均一サービスを得ることであり、効率性とは、多くの人がネットワークに参加することで、提供する側も利用する側もメリットを享受できる、という意味。
 
郵便も、国内や海外のどこでも送れるからこそ、魅力がある。○○市限定、とか、○○県限定、と言われると、限定的なネットワーク自体に魅力を感じないため、提供する側も受ける側もメリットが低下する、ということ。
 
 
ユニバーサルサービスは官営すべきか
 
適しているとはいえ、それは必ずしも官営である必要はない。法律などの規制によって、ユニバーサルサービスを実現する業者を参入させることだって可能。いろいろな仕組みが海外でも導入されている。つまり、官によるコントロールは必要なものの、市場原理を導入することは、必ずしも間違いではない、ということだけは確かなよう。
 
 
郵便貯金や簡易生命保険はユニバーサルサービスにすべきか
 
郵貯や簡保は、上記のユニバーサルサービスの定義からすれば、郵便局が提供する必要はないと思われる。だって、ネットワーク性が必要ないから。全国展開している銀行もあれば、地銀だってある。保険だってそうだ。郵便ネットワークを利用する最もな理由はない。
 
郵貯や簡保は、過疎地や離島などの人たちに対して平等に提供する意義がある、というのがよくとり立たされるが、これを読んですっきりした。
 
この問題に対する経済財政諮問会議の態度は極めて明確である。「郵便貯金等は、国民生活に不可欠なサービスであるが、ほとんど全ての地域において民間金融機関が同様のサービスを提供しているため、現状においては、民間金融機関のない過疎地域等への配慮は必要としても、郵便貯金等のユニーサルサービスを義務づける必要性は乏しいと考えられる。」簡易保険についても同様の説明がなされ、ユニバーサル・サービスの義務づけは必要ないとされる。理論的には、この見解は極めて妥当なものであると思われる。特に理論的な観点からは、郵便貯金や簡易保険は、ネットワーク性の程度が極めて低いので、ある事業者に「ユニバーサル・サービス義務」を課す根拠が乏しいという点を指摘しておきたい。
 
 
というわけで、今回の基本方針は、そもそも郵貯や簡保はなんで郵便局で提供しなければならないのか、明確な理由がすっぽり抜けている気がしてならない。「銀行法、保険業法等に代わる新たな規制を検討する」というのは、民業圧迫にはならないのだろうか。疑問が多い。。。。。

利益第二主義

鹿児島県にある、複合型スーパーマーケットAZの話。サーバントリーダーシップ的な考えだったり、本著のタイトルにもあるとおり、利益の追求ではなく、顧客満足を追求する姿勢は、考え方として刺激になる。チラシは発行しない、とか商品管理しない、とか小売業界で常識と思われていることを否定されていることに対しても、示唆は多い。
 
個人的に気になったことをメモ。
 
 
神は細部に宿る
 
良い経営とは、細部を気にすることにあると感じる。低価格を実現するために、建設業者と相談して、安い工法を検討し実現する。顧客からの要望に基づき、自動車販売や車検、ガソリンスタンドまで拡張していくが、そのときも業界の常識に捉われないように気をつけながら、独自の調達方法や業務手順を開発していく。
 
物事を実現していくためには、緻密に考えなければならないところがある、とよくいわれる。神は細部に宿るのだ。経営者は管理したり、金銭感覚に優れていたり、というだけではだめで、細部を詰めていく場所の見定めと、追求する力が必要なのだと思う。
 
企業のアイデンティティに係ること、長期的な基盤インフラなどに係ること、など企業として重要なところでは、従業員よりも細部を考えなければならない。
 
 
何を指標として考えるか
 
販売計画や利益計画もなければ、POSなどの商品管理も行わない、ということには驚いた(POSについては、正確には導入してはいるが活用していないそうだ)。
 
利益や売上を見るのではない。となると、何を基に経営しているのかよくわからなかったのだが、読み進めてわかった。AZが気にしているのはリピート率と客単価。過疎化地域で経営していくためには、回数と1回の売上を上げることに注目している、というわけだ。
 
ここから得られる示唆は、企業として重要な指標は何か、ということを今一度考えてみる価値がある、ということだ。一般的には、売上がどれぐらい、利益は何%ぐらい、みたいな管理会計的な話がよく言われる。それも確かに重要なんだろうが、KPIとして他の指標の方が重要なことだって考えられるんじゃないだろうか。   
 
 
利益や売上はあくまで継続的に事業を行うための手段でしかない。顧客のために欠かせない存在になることが、商売の根源であるのかもしれない。そう思える一冊。

利益第二主義―過疎地の巨大スーパー「A-Z」の成功哲学
牧尾 英二
ダイヤモンド社
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